株式会社 鬼栄

鬼師 神谷冶之(二代目) 神谷寿之(三代目)

東京銀座、歌舞伎座の屋根には普段人目につかないずっと上の方で睨みを利かせている鬼瓦があります。平成2年の工事でこれらの巨大な鬼瓦(右翼方)を修復したのが瓦の一大産地三州(愛知県高浜市)で三代にわたり鬼師を受け継いでいる神谷氏です。

「上品な鶴の家紋が入っている立派な獅子口風(鬼瓦)を最初に見たときには驚きました。その大きさ・厚さ・精緻な細工、すべてに圧倒され相当腕の立つ職人が作ったものであること、土を見ますと関東で出来たものであることもすぐわかりました。」東京から愛知の工房に運ばれてきた当時の様子を昨日の出来事のように語る冶之氏は仕事を離れると笑顔が優しい紳士です。

鬼栄・神谷冶之氏鬼師とは鬼瓦を専門につくる瓦職人をいいます。その工程のほとんどが手作業で進められ、培ってきた経験や指先の感覚を頼りに、その日の気温・湿度・天候にまで気を配ります。型紙をおこし、土を作り、自分の手にしっくりと馴染んだ道具を使い分け、幾度も土を盛りそして削り、工房の中には凛とした緊張感が漂います。人の数倍もある大きなものは乾燥の途中で亀裂ができたり、窯の中で歪みが出てしまったり、経験豊かな鬼師といえど不測の出来事は起き得ます。

が、それでも冶之氏は言います。「出来あがった鬼瓦が屋根にあがった姿を見る時が一番なんだよ。」三州の瓦産業は土を配合する粘土配合所・木型を作る工場・鬼師・瓦の窯元と分業体制が整い個々の工房が余分な設備投資をしなくともすむ環境にあります。また技術を引き継いでいく世代交代も比較的円滑に行われています。しかし瓦の良さを知り瓦を使っていく人達が減り工房の経営は決して楽とは言えません。そんな中で冶之氏より(株)鬼栄の代表を引き継いだ寿之氏は鬼師としての技術を研鑽することに加えて社会の情勢を見据えた経営者としても任を果たさなければなりません。

「本来は屋根にある姿が最も様になっている瓦ですが、これからは家の中や庭などの屋外にあっても良いのではないかと思います。その上で木や水といった素材との協調を図りトータル的な提案のできる職人が必要とされるのではないかと考えます。大きな鬼瓦を作ったり修復すると同時に見る人がこころを動かす作品を作っていけたらと精進しています。」

鬼栄展示室鬼栄の工房2階には展示室があり、貴重な型紙や一点ものの作品などを地元小学校の社会見学の場に提供したり、外国人観光客へ開放したりしていぶし瓦や鬼師の仕事を身近に感じてもらう機会を作っています。